平成23年8月27日
帝京大学教授、一橋大学名誉教授 新田 忠誓
この度、第27回全国大会で理事に選出され新理事会において会長に選ばれました。故興津裕康前会長の後を受け、初代故新井益太郎会長以来、第9代の会長となります。これまで会長は総て本学会発起人の中から選ばれてまいりました。私は設立当時、慶應義塾大学の助教授で、発起人であられた故会田義雄先生の下にあり、発起人に名を連ねられる立場ではありませんでした。今回、発起人以外から初めて選出されたということで一つの区切りになったようで身の引き締まる思いでおります。加えて、本学会は1985年の設立以来四半世紀を超え、壮年期に入りつつあります。次の発展の礎を築くことが求められていると感じております。
申すまでもなく、わが学会の目的は「簿記の理論、実務および教育などの振興をはかる」(設立趣旨書より)ことにあります。この趣旨に沿い、簿記に関わる、大学・高校・専門学校教員・公認会計士・税理士・経理担当会社員・コンサルタント等々と多様な分野の会員が集い、更に法人会員も擁しております。この点、いわゆる社会科学系の学会としては異色の学会といえますが、これが本学会の強みになっていると思っております。
私の卒業学部は福島大学経済学部ですが、当時の経済学部(とくに旧・高商(Handelshochschule)系の学部)では殆どが簿記は必修でありました。私と同年代の会員の中には簿記で苦労された方も多いのではないかと推察しております。そう言う私もその一人でした。しかし、学生・生徒の自主性・興味の尊重とかいう教育方針の所為でしょうか、現在では、経営・商学系の学部ですら簿記を必修とする学部は少なくなってきたようであります。そもそも学問や学習は苦労するから、その技能や知識ならびに論理を体得できると私は信じており、学ぶ者の苦労を避ける教育には疑問を持っております。
近年「簿記離れ」という言葉を耳にします。原因が、産業経済社会に対する興味どころか、計算すらおぼつかない学生や生徒を生みだした「ゆとり教育」にあることは大方の会員の皆様、体験済みであると思われます。簿記離れを象徴するかのように、商業高校が廃校となるか総合高校に統合化される現象も目立っております。これは、前掲の経済系大学の簿記非必修化とともに、わが国産業とりわけ地場産業の未来にとって由々しき問題であると思っております。簿記技能を身に付け、計数に基づく管理のできる商人・経済人の存在、そしてこれを支える簿記は産業の発展にとって必須であります。わが学会は簿記の研究・教育・実務の振興を図る学会として、わが国産業経済を支え、「ゆとり教育」の犠牲者を助けることは勿論、非合理な教育を実践してきた教育行政にも国民として物申さなければならないかもしれません。嘗て社会で必要な資質として「読み、書き、算盤」と言われましたが、これを凝縮したのが簿記であると思っております。
ところで、第27回全国大会統一論題・討論会の場で司会の藤井秀樹教授の指名により総括として、これからの簿記の問題点と課題について安藤英義企業会計審議会会長が簿記検定の在り方および実務指針の会計処理を挙げられましたが、私も同感であり、その場の会長挨拶でも即興でこれらへの現下の回答を示しました。前者については、幸い本学会は公益社団法人全国経理教育協会の簿記検定を後援しておりますので、簿記教育のあるべき姿の模索と発展にこの後援を利用できないかという思案であります。後者については何らかの提案を世に問う必要がありましょう。これに関して今回、当学会に与えられた産業経理協会の研究助成を元に、これまでの本学会研究部会の成果をまとめた事典(『勘定科目・仕訳事典』中央経済社)を刊行できました。今後もこのような機会を作れればと思っております。
最後に、会員の皆様と一緒に、広く簿記理論研究の場として本学会を更なる発展に向けて進めて行きたいと思っております。皆様のご支援とご協力をお願いする次第であります。また、個人法人を問わず、この開かれた本学会の趣旨に賛同された簿記に興味のある各位のご入会もお勧めし、共に歩んで行けることも望んでおります。
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